第3回 2016学生・若手実務者のための構造デザインコンペティション

2次審査レポート

会場となった建築会館

6月19日(土)、東京・三田の建築会館ホールにて、「第3回学生・若手実務者のための構造デザインコンペティション」の2次審査(公開審査)・講評が開催されました。本年で第3回目となる本コンペは、構造デザインに特化したコンペティションとなります。主催は、総合資格学院と構造デザインコンペ企画運営委員会。本年度は国内・海外から72作品が集まりました。

本年のテーマは「まち・呼応・構造」。「まち」は時間的な流れにより変貌をし、人々にかかわるものが変わると「まち」に向かう意識も姿勢も変わり、「まち」自体も変わる。この課題は応募者が「まち」を表す物や事を抽出し、造形して、構造として提案をするものです。

2次審査に進んだのは1次審査で選ばれた20作品。午前中は審査委員による事前審査、午後からはプレゼンテーション・講評(公開審査)が行われました。

2次審査審査委員(五十音順)

赤松 佳珠子氏
(法政大学准教授/シーラカンスアンドアソシエイツパートナー)

新谷 眞人氏※審査委員長
(早稲田大学名誉教授/オーク構造設計取締役)

大森 博司氏
(名古屋大学名誉教授)

佐藤 淳氏
(東京大学大学院准教授/佐藤淳構造設計事務所)

竹中 司氏
(アンズスタジオパートナー)

永井 拓生氏
(滋賀県立大学助教/Eurekaパートナー)

彦根 茂氏
(Arup 東京事務所特別顧問)

和田 章氏
(東京工業大学名誉教授)

20選

作品名
No.1 「想いを醸成するワイナリー」
No.2 「まちの高架下」
No.3 「Oyster Reef -共に成長するまち-」
No.4 「Honeycomb Station 日々、変化するまちの景色」
No.5 「crowd of cloud」
No.6 「満ちて、咲いて、結ぶ」
No.7 「移ろいゆく白い営み」
No.8 「Bowed Bamboo -今と昔を繋ぐ橋-」
No.9 「変形できるマイクロ建筑」
No.10 「多機能女性トイレ」
No.11 「竹で繋がる風景」
No.12 「風の散歩道」
No.13 「畑の上、木の下 まちの流れに抵抗し 四季を獲得し 人は集う」
No.14 「Yoshi Pavilion ~数日間の水上ステージ~」
No.15 「共有基礎の街 谷埋め盛土造成地において如何に住まうか」
No.16 「日常に生きるボクらはどこへいく」
No.17 「wind-ing road」
No.18 「天幕の風景」
No.19 「幕の合間で」
No.20 「SKY CASTLE 天空の城」

準備をする出展者

中庭で模型を設営する出展者

事前審査の模様(1)

事前審査の模様(2)

20作品のプレゼンテーション

審査委員長・新谷氏の開会挨拶

午後からのプレゼンテーション・講評(公開審査)の冒頭に審査委員長の新谷眞人氏より開会の挨拶があり、「今回のテーマは非常に難しかったと思う。私自身、テーマを作成しながら、“まち”と“呼応”と“構造”をどのように結びつけようか大変悩んだ。しかし、出展された皆さんは、テーマから何かしらを見つけ、関連づけて作品をつくってくれた。深く感謝している」と、本コンペのテーマに込めた想いや出展者への謝辞が述べられました。

続いて、20作品のプレゼンテーションがスタート。持ち時間は、プレゼンテーション5分・質疑応答5分の計10分。テーマをもとにそれぞれの着眼や独自の感性から生まれた魅力ある提案は、その構造を実現するための方法や具体的な素材、加えて構造を支える根拠となる数式や解析などを具体的なファクターを加えて語られました。

質疑応答では、審査委員たちは経済性や、素材の選択についてだけではなく、「まち」の周辺環境や人の暮らしなど、提案によって変わっていく未来にどのような可能性があるのかなどを確かめていました。発表者は問われた内容に対して、自らの着想へのこだわりや「まち」への想いなど、時に言葉に詰まりながらも熱く語る姿勢がありました。

プレゼンテーションの模様

様々な質問を投げかける審査委員

議論が繰り返される公開審査、熱戦の末、最優秀賞決まる

全20作品のプレゼンテーションの終了後、各賞を決める公開審査が行われました。公開審査では、まず各審査委員が5作品を選んで投票し、その結果を議論の土台とします。しかし、投票結果のみで賞を決めるのではなく、票の少ない作品もしっかりと吟味し議論を重ねるという方針のもと、討議が幾度も繰り返されました。作品一つひとつに真摯に向き合い、様々な角度から検証し、時には出展者へ質問を投げかけ、それぞれの作品に込められた真意が深く掘り下げられていきます。審査委員の言葉に熱心に耳を傾ける出展者とオーディエンス。議論と投票が繰り返され、作品が絞られていくにつれ、場内は緊張感と受賞作品決定への期待感に満ちていき、徐々に熱気を帯びていきました。

議論が尽くされ、残ったのはNo.5「crowd of cloud」、No.6「満ちて、咲いて、結ぶ」、No.8「Bowed Bamboo ‐今と昔を繋ぐ橋‐」の3作品。いよいよ最優秀賞を決める決戦投票となりました。その結果はNo.5が2票、No.6が3票、No.8も3票。甲乙つけがたいハイレベルな争いに審査委員の票が割れ、2作品が同票となったため、場内は一瞬緊張の糸が緩み安堵感に包まれました。しかし、次は同数を得票したNo.6とNo.8の一騎打ちでの、挙手による再投票。場内の全員が固唾を飲み、ステージの審査委員たちに熱い視線を向けるなか、No.6に挙手したのは3名。残る5名はNo.8に手を挙げ、この瞬間、No.8が最優秀賞、No.5とNo.6が優秀賞に決定。その後、最優秀賞・優秀賞を除く全作品を対象に各審査委員賞5作品と、奨励賞2作品が選定され、大きな拍手のなか公開審査は幕を閉じました。

審査を熱心に聞き入るオーディエンス

公開審査の模様

最優秀賞 副賞:賞金50万円 No.8「Bowed Bamboo ‐今と昔を繋ぐ橋‐」

中国雲南省の潦滸を敷地に選定し、まちを東西に分断するように流れる南盤江に、アーチ状の竹の橋を架けることで東西を繋ぐ提案。西部の「古道」と東部の「新街」を繋ぐことで新しいものと古いものを呼応させ、経済や文化の交流を図り、相互成長と相互作用を促す。竹のジョイント部を金属部品などで補強することで、安定性と強靭性を増強している。

赤松氏 :綺麗でとてもシンプル。非常に美しい形態であることは評価できる。
新谷氏 :「まち」と「呼応」というテーマにしっかりと応えている提案。
彦根氏 :竹をうまく使っている。橋は5年しかもたないとのことだが、何度も作り変えることが、むしろまちを活気づけるきっかけとなる。

李桑さん・高瑛曼さん
(北京工業大学)

優秀賞 副賞:賞金10万円 No.5「crowd of cloud」

空き家・空き地が増加し人々の活動や居場所が衰退していくなか、自分たちで公共スペースをつくり維持していく方法の提案。愛知県新城市を敷地に選定しケーススタディを行った。一人で持てる大きさのアルミ風船をみんなで持ち寄り、覆い屋根をつくることで人々の居場所をつくる。アルミ風船により平面的・立体的な拡張が可能で、屋根がまちを移ろうことで様々な活動の場を生み出すことができる。浮力を利用したアルミ風船と磁力を利用することで、人が作れる材料・形状・接合に配慮している。

大森氏 :美しい形状で実現可能性が高い。ヘリウムが漏れたり雨への対応など心配な点はあるが、発想は面白い。
竹中氏 :非の打ちどころがないくらいバランスが良い。現実的過ぎるのでもう少しチャレンジがほしかった。

田村尚土さん・淺見泰則さん
涌田純樹さん・鈴木愛実さん
芹川拓人さん
(ディックス/涌田純樹事務所/名古屋工業大学)

優秀賞 副賞:賞金10万円 No.6「満ちて、咲いて、結ぶ」

愛知県西部に浮かぶ小さな無人島を敷地として、非日常的な空間に、月の満ち欠けに呼応して咲くバージンロードを提案する。バージンロードは、傘の可動機構に着想を得た「花」と呼ばれる架構であり、大小様々な形状を提供できる。花の下に設けた浮きが浮力を受けることで開閉し、また、紙を折り曲げる構造を重ね合わせることで開閉する機構としており、水位が上がると花が咲き、下がると萎んでいく。テンション材を貼ることで開閉度を制御し、耐力の向上も図った。

佐藤氏 :実現する可能性がある提案。解析技術をしっかりと見せてくれた点も高く評価。
大森氏 :純粋にこの上を歩いてみたいと思わせてくれる。コンペは夢を形にするキッカケとなる場であってほしいので、このような作品は評価したい。

松岡舞さん・河原大輔さん
上原雄貴さん・中村建太さん
服部彰仁さん
(Arup)

公開審査後は中庭に移動し、表彰式が行われました。大勢の出展者・オーディエンスが見守るなか、受賞者は審査委員としっかりと握手。大きな拍手に包まれながら、皆笑顔で賞状を受け取っていました。表彰式の後は出展者と審査委員、オーディエンスも交えての懇親会。作品について、審査について、また様々な建築に関する話に花が咲きました。懇親会は国境や世代の垣根を超えた貴重な場となり、賑やかなムードのなか、第3回構造デザインコンペは大団円を迎えました。

2次審査開催概要

○2次審査(公開審査)・講評
平成28年6月19日(日) 13:00~17:30
○表彰・懇親会
平成28年6月19日(日) 18:00~20:00
○会場
建築会館ホール(東京都港区芝5-26-20)
○主催
総合資格学院/構造デザインコンペ企画運営委員会