2次審査レポート
会場となった建築会館
6月20日(土)、東京・三田の建築会館ホールにて、「第2回 学生・若手実務者のための構造デザインコンペティション」の2次審査(公開審査)・講評が行われました。本コンペは、本年で第2回目となる構造デザインに特化したコンペティションとなります。主催は、総合資格学院と構造デザインコンペ企画運営委員会。本年度は国内だけではなく、アジア・ヨーロッパなど海外からの応募もあり、80作品が集まりました。
今回のテーマは「往来・停泊・構造」。地球上から自分が選んだ場所で、そこにあるものを改造し、あるいはそこにないものを付与し、どんな「往来・停泊」の空間を創出するのか、その構造はどのようなものかを提案する課題です。
2次審査に進んだのは1次審査で選ばれた20作品。午前中は審査委員による事前審査、午後からは参加した19チーム(1チーム棄権)のプレゼンテーションと講評(公開審査)が行われました。
2次審査審査委員(五十音順)
赤松 佳珠子氏
(法政大学准教授/シーラカンスアンドアソシエイツパートナー)
新谷 眞人氏※審査委員長
(早稲田大学名誉教授/オーク構造設計取締役)
大森 博司氏
(名古屋大学名誉教授)
小渕 祐介氏
(東京大学大学院特任教授)
佐藤 淳氏
(東京大学大学院准教授/佐藤淳構造設計事務所)
永井 拓生氏
(滋賀県立大学助教/Eurekaパートナー)
彦根 茂氏
(Arup 東京事務所代表)
和田 章氏
(東京工業大学名誉教授)
20選
作品名 |
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No.1 「Bridge Station -浮力を利用した船着き場の提案」 |
No.2 「根をはる楔に寄り添う綠」 |
No.3 「Reincarnation」 |
No.4 「ARCHITECTURE ORGANISM」 |
No.5 「Removable half-way house」 |
No.6 「灯籠の喫煙室」 |
No.7 「CROWS “HOME”」 |
No.8 「Air Pass -繋がる往来のかたち-」 |
No.9 「木密の中に密かに佇む空の見える家」 |
No.10 「水面に浮かぶ泡」 |
No.11 「泰山の茶屋」 |
No.12 「人と水の溜まり場」 |
No.13 「日常と非日常の架構」 |
No.14 「Letter Architecture」 |
No.15 「羽衣の遊歩道」 |
No.16 「A church in the wind -El camino de santiago」 |
No.17 「雨宿り」 |
No.18 「ぼくらの橋 ~つながる気持ちがつくるカケハシ~」 |
No.19 「日陰をつくる構造体」 |
No.20 「都市の隙間を編む Weaving in Urban Gaps」 |
事前審査の模様(1)
事前審査の模様(2)
事前審査の模様(3)
19作品のプレゼンテーション
2次審査開始に先立ち総合資格学院 学院長 岸 隆司より挨拶
午後からのプレゼンテーション・講評(公開審査)の冒頭、主催者である総合資格学院の学院長 岸から開会の挨拶があり、「本コンペは国づくり・街づくりの根幹をなす建設業界への貢献するという理念の一環として、全国の構造を学ぶ学生・若手技術者が対象の、研究成果を発表・評価する場をつくり、優秀な技術者の育成につなげたい」とコンペの意義などが語られました。
続いて、1次審査を通過した19作品のプレゼンテーションがスタート。持ち時間はプレゼンテーション5分間、質疑応答5分間の計10分。テーマにそれぞれの視点や感性で切り込んだ魅力ある提案が、その構造を実現する具体的な素材や特性、解析モデル、数式、シミュレーションなどの根拠とともに説明されました。
質疑では審査委員が構造や材料、設計、コストの妥当性だけでなく、周辺環境や関係するヒト・モノの特性、さらには提案を構築していく際の思考・作業の連続性や発展性などにまで踏み込んで、各作品の意図や実現可能性を確かめていました。発表者は時に言葉を詰まらせながらも、質問について自らの考えやこだわりなどを述べていました。
プレゼンテーションの模様
審査員が真剣に聞き入る
真摯な公開審査
全19作品のプレゼンテーション終了後、審査委員による公開審査が行われました。公開審査では、まず審査員がそれぞれ自分が推す7作品に投票。その結果、No.15:羽衣の遊歩道とNo.16:A Church in the wind -El Camino de Santiagoが8票でトップとなり、No.18:ぼくらの橋 ~つながる気持ちがつくるカケハシ~が7票、No.5:Removable half-way houseが6票、No.2:根をはる楔に寄り添う綠が5票でそれを追う展開に。最優秀賞および優秀賞はこの5作品の中から選定するということで、議論がスタートしました。
まず最優秀賞候補5作品に対して各審査委員が自由にコメントすることになり、審査員は自分が投票したあるいはしなかった理由を、作品のアイディアやコンセプト、プレゼンテーションの内容などについて賞賛したり、また時には苦言を呈すなどしながら率直に述べました。また、プレゼンテーションや質疑応答の時に納得がいかなかった点について、もう一度各チームに直接質問をぶつけ説明を求める一幕もあり、真摯に作品を理解し、評価する姿勢が伺えました。
公開審査の模様
白熱する審査
まさかの展開、そして各賞が決定!
ついに各賞が決定!
最優秀賞候補5作品に対する一通りのコメントが終わったところで、佐藤氏から個人的に推す候補外作品への応援演説がありましたが、最終的には5作品に次点のNo.9を加えた6作品の最終投票となりました。彦根氏からは「"何を解決したいのか"という目的が今の我々の社会全体に対しどれだけ有益かという観点を重視したい」との意見が出され、投票は重み付けを考慮して5点、3点、1点の配分で行われることになりました。
最終投票の際も審査員の間で活発な意見のやり取りがありましたが、結果、No.18が18点を獲得しトップとなり、No.5が13点で次点に。1位、2位の点数差が5点もあったということで、順当にNo.18が最優秀賞に、No.5が優秀賞の1作品目に決定しました。ところが3位はNo.15とNo.16が同点となり、残る優秀賞1枠を争う展開に。
審査員の1人1票による決選投票が行われたものの、結果は審査員8名がきれいに割れまたも同票に。そこで冒頭に挨拶を述べた総合資格学院学院長 岸の1票を加え、5票を獲得したNo.5が優秀賞2作品目に決定しました。その後、各審査委員から特に推したい作品が挙げられ、各審査員賞が決定しました。
最優秀賞 副賞:賞金20万円 |
No.18 「ぼくらの橋 ~つながる気持ちがつくるカケハシ~」
つくる人とつかう人が異なる従来の建築物ではない、誰でも手に入れることができる材料で、重機などの機材を使わずに、簡単に成立する「プライベートインフラ」としての橋を提案。支柱を立てバックスティを張った後、自動制御のドローンにより吊糸を編み上げて構成される吊り構造と、橋板で構成されるアーチ構造の混合構造で構成される。「自分たちでモノを作った喜びが、更なる新しい社会のきっかけになる」そんな期待を込めて考えられた作品。
小渕氏:こういったデジタルファブリケーション的思考で、構造とテクノロジーを活かした新構造・新工法のあり方を研究しようとする姿勢が大切。 |
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谷口尚範さん・牧住敏幸さん・ |
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優秀賞 副賞:賞金10万円 |
No.5 「Removable half-way house」
中国河北省唐山市、南湖湿地公園。数年前に地震で壊滅的な被害を受けた後、復興により現在は公園として人々の憩いの場となっているものの、高齢者、若者、子供あるいは従業員にはそれぞれに不便を感じている。これらのニーズを満たし、人と動物の拠り所となる構造体を提案。木材を組み合わせた構造は、休憩所であり待ち合わせ場所であり収納スペースであり、様々な機能を同時に実現する。
和田氏:構造物そのものに目新しさはないが、発表がとても上手くコンペティションの趣旨を理解していると感じた。 |
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YANG Xuさん・LIANG Xiaoyangさん |
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優秀賞副賞:賞金10万円 |
No.15 「羽衣の遊歩道」
本作品は「より若い建築学生が自己鍛錬の場として積極的にコンペに参加し、様々な経験を積んで欲しい」と云う主意のもと、本年度より新設されたアンダー20枠より2次審査に選出されました。 静岡県清水市、清水半島三保松原。羽衣伝説で知られる景勝地であるが、消波ブロックが景観を損ねる、砂浜が歩きづらく観光客などが南部に集中する、潮により砂浜が削られているなど、問題が多い。そこでこれらの問題を解決する機能を併せ持ち、羽衣のように海上に浮かぶ遊歩道を提案。U字型の構造により消波をしつつ引き潮時に砂を巻き上げ、沖に砂が流出することを防ぎ、かつ再生を行う。
佐藤氏:このようなブリッジが海面に浮いていることで、かえって景観を損ねないかなど大振りな点は気がかりだが、力学的な原理をきちんと考えた上で、水槽モデルなどを含めよいプレゼンテーションとしてまとめてある。 |
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三谷昌史さん・江原夏季さん・ |
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赤松賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.11 「泰山の茶屋」
中国山東省泰安市、泰山。山道をゆく参拝客が足を休める茶屋や、祈りをささげる空間として構成でき風景に溶け込む、ロッドを曲げフレームを作り天幕を張った構造物を提案。
赤松氏:なかなか綺麗な構造・カタチになっていると思いますし、季節・天候に対応してリリースできるなど合理性を感じます。中国の印象的な情景の中にうまく佇んでいくのではないかという点も含め選びたいと思います。 |
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鈴木宏昌さん |
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大森賞(審査員賞)副賞:賞金5万円 |
No.3 「Reincarnation」
宮崎県高千穂鉄道第二五ヶ瀬川橋梁。台風により崩壊した交通インフラを遊歩道として再生、川辺に入り、風と触れあい、文化とすごし、川と暮らし、空をつかむ橋梁を提案。
大森氏:自分の質問に対し「力学的なバックグラウンドがない」と言ってしまったので敢えて外してきましたが、そのカタチに力学的なバックグラウンドを持たせれば更に良いものになるというマージンの大きさと、模型も非常によくできていたという点を評価したいと思います。 |
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田村尚土さん |
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小渕賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.20 「都市の隙間を編む Weaving in Urban Gaps」
住宅密集地にできる線形状の隙間を、新しい停泊の場に。イランの部族が使う住居をヒントにCFRPロッドをコンピュータ解析で2次元から3次元へと構成していく構造物を提案。 小渕氏:今回は社会的問題に対する作品が選ばれていると感じますが、私はコンピュータや技術を使った作品というものを今後も応募してもらいたいという点を踏まえ、コンピュータを上手く活用したこの作品を推したいと思います。 |
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隈太一さん・蒔苗寒太郎さん |
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彦根賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 | No.2 「根をはる楔に寄り添う綠」
モロッコ、メルズーガ大砂丘。NPO団体やラクダツアー客、そして地元住民の活動拠点となり、砂漠緑化の起点となる、竹を四角錘状に組み合わせた構造体を提案。
彦根氏:最初は構造的に魅力があるものではないという印象だったが、増設が可能な構造をきちんと備えた提案であり、砂漠化を防止するという世界的に本当に重要な側面を持つ技術であると考えられ、非常に好感が持てました。 |
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青木昂志良さん・山川裕之さん・ |
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和田賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.9 「木密の中に 密かに佇む 空の見える家」
墨田区京島地域。木造密集地帯である地で、エネルギー、交通、法律、地域、防災に関する社会構造の変化に対応する、空き家を利用したコミュニティ/カフェスペースを提案。
和田氏:今の問題をきちんととらえた良い作品だと思います。 |
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冨永裕太郎さん・林拓弥さん |
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審査員奨励賞 (新谷氏、佐藤氏、永井氏の3名で票決) 副賞:賞金5万円 |
No.1 「Bridge Station -浮力を利用した船着き場の提案」
東京都墨田区、隅田川桜橋。桜のシーズンは観光客や屋形船で賑わうも普段は閑散とするこの橋に代わり、往来用の橋、船着場、水中通路の3レイヤーで構成される複合機能をもち、近隣の浅草寺と東京スカイツリータワーからの動線を引き込む構造を提案。 |
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安生仁さん・石井那実さん |
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審査後に表彰式が行われ、9組の受賞者に賞状と記念品が贈呈されました。また、最後まで優秀賞の座を巡って争い、今回の公開審査の中心にあったにも関わらず、受賞なしとなってしまったNo.16に対し各審査員から疑問が呈され救済策が模索された結果、新たに「総合資格社長賞」が設けられ、No.16が受賞の運びとなりました。
総合資格社長賞 副賞:賞金10万円 |
No.16 「A Church in the wind -El Camino de Santiago」
設定した敷地はスペイン、ラ・リオハ州、サント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダ。サンティアゴ・デ・コンポステーラへと続く巡礼路に、休憩所であり、祈りの場であり、聖地へと続く標となり、何よりもキリスト教にとって大切な意味を持つ「風」を感じる事ができる「風に揺れる教会」を提案。この教会は、微細な免震装置を集積した「マイクロリニアスライダー構造」により「風に揺れる構造」となっている。
小渕氏:免震構造のために様々な技術が開発される中で、そこから少し外れて、その技術を使ってどんな発想ができるか、という点で面白いと思います。 |
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南恵介さん・油川健樹さん・ |
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審査委員長 新谷 眞人氏の総評
表彰後、実行委員長の新谷氏より挨拶と総評があり、「今回は1次審査の時から、最後まで激戦になるだろうと予想され、実際にその通りに総合資格社長賞も飛び出す激戦となりました。非常に活発な議論ができ、またそれだけの作品を皆さんが応募して頂いたことを嬉しく思います。前回に比べ模型やプレゼンのレベルも上がっており、我々も皆さんの熱意に感謝しています。今年賞を取った方も取れなかった方も、来年、再来年と参加して頂きたいと思います。本日は本当にありがとうございました」とのコメントがありました。
審査会終了後、受賞者、観客、審査委員、関係者の懇親会が同会場の中庭で行われました。懇親会は建築やそれにまつわる様々な事柄について、世代や国境を超えた楽しい語らいの場となりました。