第5回 2018学生・若手実務者のための構造デザインコンペティション

2次審査レポート

会場となった建築会館

平成30年9月8日(土)、今年も総合資格学院/構造デザインコンペ企画運営委員会が主催する「第5回 学生・若手実務者のための構造デザインコンペティション」の2次審査(公開審査)・講評が、東京・三田の建築会館ホールにて開催されました。

本コンペティションを共同主催する総合資格学院は、創業以来「有資格者の育成を通じ、国づくり、都市づくりの根幹をなす建設業界に貢献する。」という企業理念を掲げて活動を行ってきました。その活動の一環として、「構造に携わる学生や若手技術者たちが日々の研究成果を発表し、評価を受ける事のできる場を作ること」を目的として平成25年10月に実行委員会を設立。平成26年に構造系のイベントとして「第1回 構造デザインコンペティション」を開催しました。第5回目となる今回は、業界の未来を担う学生・若手技術者から計62作品が寄せられました。

今回のテーマは「学習・革新・構造」。

近年、あらゆる分野においてコンピューテ-ショナルデザインの普及が著しく、特に「AI(人工知能)」を利用した技術・技法・制作は、人間の技巧を多くの分野で凌駕しつつあります。人類は果てしない時間をかけて、一人ひとりが事象・事物を見つめ、様々なことがらを学び、知識を蓄積し、表現として表記し、自分が知り学んだことを他者に伝達し共有してきましたが、AIは人類のこうした成果を習得し、AI同士で瞬時に共有することができます。 しかし、現時点でAIは、多くの学びを蓄積していても、抽象の世界の中で、全く新しいものを生み出して表現する能力は持ち合わせていません。私たち人類は意識・無意識を問わず、学び、知識を習得する世界を越えて、「創造の意志」と「想像力」によって、学んだ成果を突き抜けて新たなものを誕生させ、環境や自分を革新していくことができます。 今回のコンペティションでは、このような学んだことを突き抜ける発想で、革新的な構造を提案することが求められました。

2次審査に進んだのは1次審査で選ばれた17作品。午前中は審査委員による事前審査、午後からは参加した全チームのプレゼンテーションと講評(公開審査・最終討議)が行われました。

2次審査審査委員(五十音順)

赤松 佳珠子氏
(法政大学教授/CAt シーラカンスアンドアソシエイツ トウキョウ)

新谷 眞人氏
(早稲田大学名誉教授/オーク構造設計取締役)

大森 博司氏
(名古屋大学名誉教授)

佐藤 淳氏
(東京大学大学院准教授/佐藤淳構造設計事務所)

竹中 司氏
(アンズスタジオパートナー)

田村 恵子氏
(金箱構造設計事務所)

陶器 浩一氏
(滋賀県立大学 教授)

永山 祐子氏
(永山祐子建築設計)

彦根 茂氏
(彦根事務所 Office Hikone)

松尾 智恵氏
(川口衞構造設計事務所)

山脇 克彦氏
(山脇克彦建築構造設計)

和田 章氏
(東京工業大学名誉教授)

17選

作品名
No.1  Yoshi Fall
No.2  都市を異化する木塊
No.3  STRUCTURE SEEDS
No.4  千変万化 ~順応する広場~
No.5  海がきこえる Design of conceptual Lighthouse
No.6  Shelter in Mist
No.7  しとらす
No.8  看板シェル
No.9  無意識を映す陰廊
No.10   ICE BOX 氷の殻
No.11   HOT SPRING MEMBRANE
No.12   AI(人工知能)で構造体を育成する木循環都市
No.13   MEMBOO-A temporary structure of membrane and bamboo-
No.14   Form+agio
No.15   Tea Of Time Time Of Tea
No.16   呼吸する建築
No.17   MEGA STOMATA

17作品のプレゼンテーション

午後からのプレゼンテーション・講評(公開審査)の冒頭、審査委員長の新谷氏から開会の挨拶があり、「今回から審査委員の入れ替えを行い、若手や女性の審査委員を数多く追加しました。2次審査に進まれた皆さんは、審査委員に責められることもあるかもしれませんが、最後までめげずに頑張ってほしい。」と、これからプレゼンテーションに臨む各チームにメッセージが送られました。

続いて17作品のプレゼンテーションが行われました。持ち時間はプレゼンテーション5分、質疑応答5分の計10分。各チームがテーマ対して正面から向き合い、独自の視点や感性で問題に切り込んだ、力強くユニークな発表が行われました。構造コンペティションの名に恥じない発表が行われ、他の設計展以上に実現性の高い発表が多く見られました。

質疑応答では、構造や建築のプロである審査委員から、今年度のテーマである「学習・革新・構造」の趣旨に沿った作品であるか、構造や材料、設計などは本当に妥当であるか、作品を作るだけでなく周辺環境の将来まで意識しているか、など鋭い目線で詳細な質問が投げかけられていました。限られた時間の中で、作品に対する出展者の熱意や真意を掘り下げようと、間髪入れずに質問を投げかける審査委員と、自分の考えをしっかり伝えようと努力する出展者の様子が印象的でした。

また、本コンペティションは日本の学生だけでなく、海外の学生や、既に現場で働いている社会人も参加しているのが特徴です。海外学生のプレゼンテーションでは、発表だけでなく審査委員による質疑応答も全て英語で行われ、本コンペティションがグローバルなコンペティションであることが伺えました。社会人の発表も学生に負けじと、より実現性の高い内容で発表が行われ、審査委員からもより実務的な観点で質問が投げかけられていました。

プレゼンテーションの模様

様々な質問を投げかける審査委員

最終討議の結果、最優秀賞1点、優秀賞2点の上位3賞が決定

全17作品のプレゼンテーション終了後、審査委員の佐藤氏による司会のもと、最優秀賞1点、優秀賞2点を選出する公開審査が行われました。公開審査では、まず各審査委員が5作品を選んで投票し、その結果を議論の土台とします。実際の審査では、投票結果のみで賞を決めるのではなく、票の少ない作品に対してもしっかりと吟味するために、討議が幾度となく繰り返されました。作品一つひとつに真摯に向き合い、様々な角度から検証し、時には出展者へ質問を投げかけ、それぞれの作品に込められた真意を深く掘り下げていました。

複数回にわたる議論と投票が行われ、残ったのはNo.3「STRUCTURE SEEDS」No.7「しとらす」No.13「MEMBOO-A temporary structure of membrane and bamboo-」の3作品。最後は審査委員の挙手による投票が行われ、最優秀賞にはNo.3「STRUCTURE SEEDS」が選ばれ、優秀賞にはNo.7「しとらす」No.13「MEMBOO-A temporary structure of membrane and bamboo-」の2作品が選ばれました。その後、最優秀賞・優秀賞を除く全作品を対象に各審査委員賞8作品と、模型賞1作品が選定され、大きな拍手のなか公開審査は幕を閉じました。

審査を熱心に聞き入るオーディエンス

挙手による投票で最優秀賞が決定

最優秀賞 副賞:賞金30万円 No.3「STRUCTURE SEEDS」

建築の分野で近年最も利用されているのは1自由度構造のシザーズ構造である。支保工が不要なため、大空間の構造体として提案されることが多く、平面形状やヴォールト形状、ドーム形状などに多数利用されている。一方、ビル建築のような重層建物が生成されるような展開構造の試みは数少ない。展開型且つ重層型の立体骨組構造が開発されれば、移動型や期間限定型のパビリオンなど、複数の室空間で構成される建築に活用できるのではないかと考えた作品。

竹中氏:「コンポーネントの長さを変えることができれば、形の自由度を上げたさらに良い作品になると思いました。今回の発表を(今回だけで終わらせず)今後さらに追求していただければと思います。」
山脇氏:「とっても可能性を感じる作品でした。建築の条件を少し与えつつ、作品の自由度を改めて考えてみると、現実的でより良い作品になると思います。」
佐藤氏:「足元と敷地の固定に関する話と、大きいモックアップの模型が用意できていれば、もっと素晴らしい発表になったと思います。」

河野 純平さん・安達 駿さん
(岡山県立大学大学院)

優秀賞 副賞:賞金10万円 No.7「しとらす」

モノが絶えず供給され、欲しいものが簡単に手に入る今、それによりモノの形の理由を考える機会が少なくなった。そこで「紙トラス(しとらす)」を作ることによって、モノの形の意味を考えるきっかけを与える建築を提案。「紙管」と呼ばれる構造材料を軸に、子供から大人まで建築の仕組みを学びながら、それぞれが考えて組み立てができるよう設計した作品。

大森氏:「とても面白い作品でした。誰でも簡単に作ることができるというコンセプトを軸に、審査委員の質疑応答にしっかりと答えられていて素晴らしいと思いました。」

尾川 航平さん・塩月 智葉さん・
坂元 利伎さん(鹿児島大学大学院)

優秀賞 副賞:賞金10万円 No.13「MEMBOO-A temporary structure of membrane and bamboo-」

近年、福岡県糸島市では放置竹林が問題となっている。管理者を失い山を覆いつくす竹は、土砂崩れの原因となり、私たちの生活を脅かす存在となっている。しかし、竹は力学的には優れた強度を有しており、竹材としての高いポテンシャルを持っている。そこで、地域で問題視されている竹を仮説建築(テンセグリティ構造の屋台用テントなど)に利用することを提案。竹材を圧縮材とし、引張材には構造用の膜材を使用し、わずか数人で建設できる極力金物を用いない作り方を考えた作品。

田村氏:「圧縮材の端部を膜材のポケットに装着する仕組みが非常によくできていると思いました。圧縮材がもう少し細いとより綺麗な作品に仕上がったのかなと思いました。」

奥村 光城さん・丸山 智也さん・
原 良輔さん・下川 祐樹さん
(九州大学大学院)

新谷・赤松賞(審査員賞) 副賞:賞金3万円 No.5「海がきこえる Design of conceptual Lighthouse」

Zhang Shengpuさん・Xiao Jiawenさん・
Zhang Jiaweiさん(北京工業大学)

大森賞(審査員賞) 副賞:賞金3万円 No.10「ICE BOX 氷の殻」

Jin Zhitong さん・Huo Yi さん・
Yu Jiayiさん・Liu Xueさん
(北京工業大学)

竹中・田村賞(審査員賞) 副賞:賞金3万円 No.9「無意識を映す陰廊」

小島 慎平さん・福田 泰之さん
(東京大学大学院)

陶器賞(審査員賞) 副賞:賞金3万円 No.16「呼吸する建築」

西川 幸希さん・林 智之さん・
畔見 徳真さん・竹中 碧杜さん
(横浜国立大学)

永山・彦根賞(審査員賞) 副賞:賞金3万円 No.6「Shelter in Mist」

張 含露さん・井田 悠介さん・
鹿嶋 渉さん
(オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド)

松尾・山脇賞(審査員賞) 副賞:賞金3万円 No.8「看板シェル」

一ノ瀬 悠輔さん・平松 大知さん
(鹿児島大学大学院)

和田賞(審査員賞) 副賞:賞金3万円 No.4「千変万化 ~順応する広場~」

橋本 楓歌さん・青木 秀敬さん・
野中 詩音さん・陽田 ゆき菜さん
(名古屋市立大学)

佐藤賞(審査員賞)・優秀模型賞 副賞:賞金3万円 No.15「Tea Of Time Time Of Tea」

Xing Zixuanさん・Zhang Yichaoさん・
Tao Jiaxinさん・Kang Aiyingさん
(北京工業大学)

にぎやかな表彰・懇親会

審査会終了後、表彰・懇親会が同会場の中庭で行われ、受賞チームにクリスタルトロフィーと副賞が贈られました。懇親会では審査委員・発表者・観客・運営が一体となり、建築や構造にまつわる様々な事柄について、世代や国境を超えて語りあう、にぎやかで有意義な場となりました。

2次審査開催概要

○2次審査(公開審査)・講評
平成30年9月8日(土) 13:00~18:00
○表彰・懇親会
平成30年9月8日(土) 18:00~20:00
○会場
建築会館ホール(東京都港区芝5-26-20)
○主催
総合資格学院/構造デザインコンペ企画運営委員会