2次審査レポート
会場となった建築会館
6月15日(日)、東京 三田の建築会館ホールにて、「学生・若手実務者のための構造デザインコンペティション」の2次審査(公開審査)・講評が行われました。本コンペは、今年が第一回目の開催となる構造デザインに特化したコンペティション。主催は、総合資格学院と構造デザインコンペ企画運営委員会。本年度は、全国より56作品が集まりました。
今年のコンペのテーマは、「海岸・空間・構造」。自分が選んだ敷地に、どのような人々のあり方があり、どのような空間を創出するのか、その空間の構造はどのようなものかを提案する課題です。
2次審査に進んだのは1次審査で56作品の中から選ばれた21作品。午前中は審査委員による事前審査、午後からはプレゼンテーション・講評(公開審査)が行われました。
2次審査審査委員(五十音順)
赤松 佳珠子氏
(法政大学准教授/シーラカンスアンドアソシエイツパートナー)
新谷 眞人氏※審査委員長
(早稲田大学名誉教授/
オーク構造設計)
大森 博司氏
(名古屋大学名誉教授)
小渕 祐介氏
(東京大学大学院特任教授)
佐藤 淳氏
(東京大学大学院特任准教授/
佐藤淳構造設計事務所)
永井 拓生氏
(滋賀県立大学助教/一級建築士事務所 Eureka パートナー(構造))
彦根 茂氏
(Arup 東京事務所代表)
和田 章氏
(東京工業大学名誉教授)
21選
No | ID番号 | 作品名 |
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1 | 5070034 | 「STATICAL SHIPS 観光客の誘致≠エコロジカルか?」 |
2 | 5206903 | 「融解する構造/風を伝える構造」 |
3 | 5291598 | 「葦の髄から水底をのぞく」 |
4 | 5291629 | 「集積パネルでできたゆるやかな海岸線の建築」 |
5 | 5305719 | 「放浪する土着建築」 |
6 | 5418752 | 「海を歩く、島を眺める。」 |
7 | 5418768 | 「Behind Birds Bridge」 |
8 | 5418779 | 「Tensegrity×津波タワー」 |
9 | 5418822 | 「Open Side Terrace」 |
10 | 5418836 | 「over H」 |
11 | 5418895 | 「ズレゴリズム-ズレて積まれる消波ブロックによる構造体-」 |
12 | 5418948 | 「そよぐ水平線」 |
13 | 5418951 | 「風を束ねる、人が集う」 |
14 | 5418953 | 「海浜の新たな活用方法の提案【海浜×竹】bamboo pergolaによる<ふれあいの場>の創造」 |
15 | 5418967 | 「共棲の方舟」 |
16 | 5418968 | 「UP」 |
17 | 5420077 | 「海風のウツロイ」 |
18 | 5420102 | 「水面のうつろい-表出の連続がこの地の建築になる。更新され続ける新しい月島-」 |
19 | 5420111 | 「しなる建築」 |
20 | 5420120 | 「海岸のポケット-フローティング構造による海岸空間の創出-」 |
21 | 5420125 | 「湖橋立WATER DUPING EFFECT BRIDGE」 |
事前審査に向け準備を行う出展者
事前審査の模様(1)
事前審査の模様(2)
21作品のプレゼンテーション
2次審査開始に先立ち総合資格学院 学院長 岸 隆司より挨拶
午後からのプレゼンテーション・講評(公開審査)の冒頭、主催者である総合資格学院の学院長 岸の開会挨拶があり、「これまで、構造系の学生および若手実務者の研究の成果を発表する場は少なかった。本コンペは、全国の構造を学ぶ学生・若手術者を対象に研究の成果を発表、評価できる場をつくると同時に、未来の技術者・設計者を育成することが目的。」と、コンペの意義などが語られました。
続いて、21作品のプレゼンテーションがスタート。持ち時間は、プレゼンテーション5分・質疑5分の計10分。最終審査に残っただけあり、どの提案も聴衆を引き込む魅力があります。構造のコンペだけあり、空間の説明だけでなく、建築の作り方や、形を成立させる根拠が、解析モデル、数式、具体的な素材と、その材料特性などの観点から説明されていきます。
質疑では、審査委員が「なぜ」や「実際」という言葉とともに、その作品の意図や実現可能性などを確かめていました。発表者は、言葉に詰まる部分もありながら、問われた内容について自らの考えを述べていました。
プレゼンテーションの模様
多くの来場者がプレゼンテーションに聞き入る
模型を使ったシュミレーション
いよいよ公開審査スタート
いよいよ公開審査スタート!
21作品のプレゼンテーション終了後、審査委員による公開審査が行われました。公開審査では、まず審査委員が5票を持ち、自分が推す5作品に投票。その結果、楠目 晃大さんのNo.5:放浪する土着建築が7票を集め、得票数ではトップに。
審査委員長の新谷氏からは、「票が集まったとは言え、各審査委員が投票した5票は最優秀作品の候補を挙げたものであり、これで決まりではありません。これから議論を進めます。」とのコメントがあり、本格的な議論がスタートしました。
No.5について「原寸大のモックアップを作った情熱」や「ワイヤーメッシュの中に砂を充填するパネルの独創性」「砂を抜けば移動が容易である点」などが評価されながらも、「形としての独創性に欠け、工学的に最も優れた案とは言い難い」「海じゃなくても建てられるのでは」との声が挙がり、最優秀作品については再度検討をする展開に。
白熱する審査(1)
白熱する審査(2)
めまぐるしい展開に観客も息を飲む
白熱する審査。そして各賞が決定!
ついに各賞が決定!
各審査委員が自分が推す作品について応援演説を行うも最優秀賞は決まらず、最終的には各審査委員が3票を投票し、上位3作品に絞る展開に。その結果、No.5とNo.3が5票ずつ票を集め上位3作品に残ることが決定しました。
残る1枠について、投票数ではNo.18が3票を集め、次点となっていましたが、「感情で作品を作りすぎているのではないか」「昔ながらの水上の家という郷愁が作品の良さとなっているのはどうなのか」「提案として新しさが感じられない」などの意見があがり、残り1枠については、審査委員が1票を持ち、再投票を行う結果に。
その結果、No.6が3票を集めました。No.6は、海に全長約700mの遊歩道を設け、その中から海中と海面上の視界を楽しめる大胆な案。「こんな遊歩道を歩いてみたい」などの声が挙がり、票は集めたものの、構造面やコンセプトに対して疑問の声が挙がり、No.6と次点の2票を集めたNo.4で挙手による投票が行われました。その結果、No.4が5票を集め優秀賞に決定しました。
引き続き、No.3とNo.5で最優秀賞を決める決戦投票が行われ、No.3が5票を集め、最優秀賞に決定。その後、各審査委員から特に推したい作品が挙げられ、審査員賞が決定しました。
最優秀賞 副賞:賞金20万円 |
No.3 「葦の髄から水底をのぞく」
島根県東部にある中海・宍戸湖は、全国のしじみ収穫量の約40%を占める豊かな漁場。しかし、近年、海底の低酸素化が魚介類をはじめとする海底生物を脅かしている。提案では、水質の浄化作用を持つ「葦(よし)」を材料とした人工的な岸を構築し、低酸素化を防止・解消することで中海・宍戸湖の漁業振興を図る。 岸を構成するユニット(3000mm×6000mm)は、人が歩く表面を強化ガラス版、その下層は樹脂グレーチング、浮きとしての葦束、蓄光ガラスチューブ、最下層に空気配管という構造になっている。そのため、岸は湖底への空気と光の供給を行うと同時に夜は蓄光ガラスチューブが発光することで新たな風景を作り出すなど、いくつもの機能を併せ持つ。
新谷氏:ハイテクな材料も使用するなど、インテリジェンスを感じる。 |
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青木 昂志良さん・西川 崇さん
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優秀賞 副賞:賞金10万円 |
No.5 「放浪する土着建築」
作品は砂浜を巡ることができる仮設建築。その土地の砂浜にある砂や土を使うことで、その土地に根ざした土着建築となる。構造は、ワイヤーメッシュに防虫ネットを貼り付けたパネル2枚を結束バンドを用いてセパレータでつなぎ、型枠のようなものを作る。その中に砂を充填し、砂の重さでせん断強度を持つ壁を作る。砂を完全に充填した際の建築の重さは7.2tであるが、砂を除いた際のフレームの重さは82kg。フレームは、パーツに分解し持ち運ぶことができる。原寸大のモックアップを作成し、実際的な検討を行いながら設計を進めた点も評価された作品。
彦根氏:ワイヤーメッシュの中に砂を充填するパネルの独創性や、砂を抜けば移動が容易である点などアイデアいい。 |
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楠目 晃大さん
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優秀賞副賞:賞金10万円 |
No.4 「集積パネルでできたゆるやかな海岸線の建築」
敷地は、福岡県の周防灘に位置する小さな海水浴場。この海水浴場に季節や人々の営みと連動する、木でできたテントのような建築を提案。この木のテントは訪れた人々が様々な大きに自由に立ち上げることで、夏は海の家や一人でのんびりと本を読む場所など、様々な使いかできる。冬には、木のテントを収納し、ビーチとつながるウッドデッキと一体となる。 佐藤氏:木材のしなりを利用した屋根のたれるやわらかさと、梁にかかるプレストレスの硬さでこの特徴的な形態が成り立つのは楽しいと思います。こんな建物が海岸にある風景は良いなと思います。 |
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菊池 昭人さん・深澤 大樹さん
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和田賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.18 「水面のうつろい-表出の連続がこの地の建築になる。更新され続ける新しい月島-」
大森氏:作者は、実際に育った場所(月島)を敷地とし、そこで水が動くことで水上建築の周囲の景色や住まい手の視界が変わることを実感し、それを作品に反映している。水位の変化に応じて動く建築は実現が難しいが、果敢にチャレンジしている点を評価したい。 |
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川田 裕さん
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彦根賞(審査員賞)副賞:賞金5万円 |
No.7 「Behind Birds Bridge」
海面に飛び出した「赤岩」には、3月になるとウトウの群れが60万羽という大群で飛来する。赤岩とウトウの群れを、絶壁側だけでなく、もっと様々なアングルから眺めるための提案。そのために、岸壁側から赤岩の周辺にぐるりと橋を巡らせる。Behind Birds Bridgeは剛接された岸壁側とフローター構造の海側に分かれており、エキスパンションジョイントでつながれている。実現可能性については疑問の声も挙がったが、彦根氏により提案のユニークさが評価された作品。 |
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高橋 農さん・高橋 里菜さん
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エキスパンションジョイントのモックアップ |
大森賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.16 「UP」
大森氏:私は、テーマの趣旨に沿っているかどうかにこだわって審査しました。その点で考えるとこの作品は、水位の下降や上昇に応じて生じる変化を建物のデザインに積極的に採り入れている点、海浜地区に建てることにこだわりがある点など、テーマの趣旨をとらえている点を高く評価したいと思います。 |
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藤井 章弘さん
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小渕賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 | No.19 「しなる建築」
小渕氏:従来の海の家のようなイメージではなく、明るく解放的でアクティビティを誘発しそう。バーを曲げるなど構造もおもしろいと思います。 |
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隈 太一さん
※2次審査当日は代理の斎藤 遼さんが |
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赤松賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.8 「Tensegrity×津波タワー」
石巻漁港から20mの場所に敷地を設定。「Tensegrity×津波タワー」は、普段は街を活性化させる複合施設として、津波が発生した際には津波タワーとして人命を救う一時避難所となる。津波が及んだ15mの位置にスラブ(2000人以上を収容可能)をTensegrity構造により象徴的につり上げる。 |
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加藤 峻さん
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審査委員長 新谷 眞人氏の総評
審査後に表彰式が行われ、8名の受賞者に賞状と記念品が贈呈されました。総評として審査委員長の新谷眞人氏からは、「56作品もの応募があったことをうれしく思っています。作品については、「海岸」「工学」「環境」についてバランスよく色々な作品が集まりました。来年も開催することが決まっているので、皆さんの応募をお待ちしております。本日は、本当にありがとうございました。」とのコメントがありました。
審査会終了後、受賞者、観客、審査委員、関係者の懇親会が同会場の中庭で行われ、建築や様々なことについて、世代を超えた楽しい語らいの場となりました。
最優秀賞の青木 昂志良さん・西川 崇さん
優秀賞の楠目 晃大さん
優秀賞の菊池 昭人さん・深澤 大樹さん
懇親会の様子
審査委員と受賞者が作品について語らう
建築談義に花が咲く
2次審査開催概要
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