2次審査レポート
会場となった建築会館
平成29年6月25日(日)、今年も東京・三田の建築会館ホールにて、総合資格学院/構造デザインコンペ企画運営委員会が主催する「第4回 学生・若手実務者のための構造デザインコンペティション」の2次審査(公開審査)・講評が行われました。
本コンペは、構造に携わる学生や若手技術者たちが日々の研究成果を発表し、評価を受ける事のできる場を作りたいと云う理念のもと、構造デザインに特化したコンペティションとして設立されました。今年は70作品が寄せられ、内29作品が海外からの応募となり、国際色豊かなコンペディションとなりました。
今回のテーマは「故郷・持続・構造」。都市部、地方を問わず、生まれ育った場所が故郷であり、その空間に付随する過ぎし日の記憶は誰しもが思い描くもの。しかし、人口の増減や、開発・衰退など様々な理由で故郷としての面影が失われていく。こうした消失する故郷を宿命とせず、構造的なアプローチによって現実に息づく街として持続させる。その解法をソフト・ハードの両面から提案する課題です。
2次審査に進んだのは1次審査で選ばれた21作品。午前中は審査委員による事前審査、午後からは参加した21チームのプレゼンテーションと講評(公開審査)が行われました。
2次審査審査委員(五十音順)
赤松 佳珠子氏
(法政大学准教授/CAt/シーラカンスアンドアソシエイツ トウキョウ)
新谷 眞人氏
(早稲田大学 名誉教授/オーク構造設計取締役)
大森 博司氏
(名古屋大学名誉教授)
佐藤 淳氏
(東京大学大学院准教授/佐藤淳構造設計事務所)
竹中 司氏
(アンズスタジオパートナー)
永井 拓生氏
(滋賀県立大学助教/Eurekaパートナー)
彦根 茂氏
(Arup 東京事務所特別顧問)
21選
作品名 |
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No.1 Pool Roof 水たまりから人たまりへ |
No.2 風立ちぬ THE WIND RISES |
No.3 可変式ツリーハウス |
No.4 湿地を守る細胞 |
No.5 マングローブ架け橋 mangrove plank road |
No.7 隙間を縫う消壁 |
No.8 循環のなかで過ごす |
No.9 未完の村 - 竹の仮設的操作における自然と呼応した住まい方の提案 - |
No.10 尾張津島天王橋 |
No.11 石の都 岡崎 |
No.12 沈む故郷 |
No.13 天に向かう方舟 |
No.14 溶岩架構 |
No.15 彩り舎る - 菊の明日を照らす - |
No.16 Buckling Bridge |
No.17 始まりの家 |
No.18 東京一〇八 |
No.19 速度への抵抗 |
No.20 茶葉香る山間のステージ - 絡み合う小径木材の屋根構造 - |
No.21 記憶をつつむ |
21作品のプレゼンテーション
午後からのプレゼンテーション・講評(公開審査)の冒頭、審査員の新谷先生から開会の挨拶があり、「テーマについてどのように取り組んだか、プレゼンテーションを通して各作品のキーポイントを聞かせてもらいたい。」とこれからプレゼンテーションに臨む各チームにアドバイスが送られました。
続いて、21作品のプレゼンテーションがスタート。持ち時間はプレゼンテーション5分間、質疑応答5分間の計10分。各チームがテーマ対して正面から向き合い、独自の視点や感性で問題に切り込んだ、力強くユニークな発表が行われました。また、構造デザインコンペの名に恥じない、活用するマテリアルの特性を生かした提案や、解析モデル、シミュレーションなどを根拠とした実現性の高い提案などが数多く見られました。
質疑応答では審査委員が構造や材料、設計、コストの妥当性だけでなく、周辺環境や関係するヒト・モノの特性、さらには提案を構築していく際の思考・作業の連続性や発展性などにまで踏み込んで、各作品のに込められた意図を詳細に確かめていました。各チームは審査員からプロの視点で投げかけられる鋭い問いに対して、時に言葉を詰まらせながらも、自らの考えを与えられた持ち時間を使い切って応えていました。
公開審査:最優秀賞1点、優秀賞2点の上位3賞が決定。
全21作品のプレゼンテーション終了後、審査員の永井先生による司会のもと、最優秀賞1点、優秀賞2点を選出する公開審査が行われました。公開審査ではまず、審査員1名につき5票をもって投票。2票以上を獲得した11作品に絞り、さらに1名3票を再投票し、3票以上を獲得した4作品に絞られました。
その結果No.1、No.10、No.17、が3票を獲得、No.6が5票を獲得し突出した評価を受けました。4作品について協議の末No.17が選外となり、残りの3作品で1名1票の挙手制による最終投票が行われました。結果、2次投票に続いてNo.6が最多の4票を獲得して最優秀賞に、No.1、No.10が優秀賞の栄冠に輝きました。また、惜しくも上位3賞の受賞を逃した力作に対して各審査員よりそれぞれの審査員賞および奨励賞が贈られました。
最優秀賞 副賞:賞金50万円 |
No.6「Woven Wharf 編みの埠頭」
中国・九江市下山島。西河と饒河が鄱陽湖に流れ込む水上交通の要衝にあって、島民は昔ながらの漁村文化を大切に過ごしている。島由来の竹を使い、竹細工技術で生活に溶け込む桟橋の構造を提案。竹材2本を結合し中央部分を膨らませた構造を1つの単位として縦横に編むように組み合わせた網目状の構造と、それを支えつつ全体をロックする支柱、およびガラスと竹板からなる上面で構成される。伝統を尊重し継承していく、そんな思いが込められた作品。
佐藤氏:「竹の材料特性を活かし、力学に適った強度のある構造と、それをモックアップで実証した点を評価したい。支柱で支えるのではなく、浮く構造であればもっと良かった。」 |
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DING Yiさん・SUN Xianqingさん・ |
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優秀賞 副賞:賞金10万円 |
No.1「Pool Roof 水たまりから人たまりへ」
オセアニアの海洋部東側、ポリネシアに位置するツバル。第二次大戦中、アメリカ軍が滑走路建設の際に地質調査のため土砂を掘り起こしてできたくぼみ(ボローピット)からの湧水や、水質汚染による「星の砂」と呼ばれる有孔虫の死骸などで構成される土壌の減少など、深刻化する海水による浸水被害を建築・構造的アプローチによって、真水に変換し地域コミュニティに組み込む提案。
竹中氏:「構造にとどまらない、時間の流れを考慮したシステムとしての作品で、新規性を感じる。」 |
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泉 芳朋さん・渡邊 眞奈さん・ |
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優秀賞副賞:賞金10万円 |
No.10「尾張津島天王橋」
伊勢と尾張を結ぶ港町であった津島で古くから取り行われてきた水祭、尾張津島天王祭。津島市の文化の象徴云える祭も、近年、参加者の減少により文化伝承の希薄化が進んでいる。人と人、人と文化を再び繋ぎなおす象徴として、祭の会場である天王川公園とその中心に浮かぶ島を結ぶ木造橋を計画。日陰と日向、多様な導線を繋ぐことで交流を促し、さしずめ青空公民館の様な役割を与える提案。
佐藤氏:「審査員からの力学的質問に対しての解答が的確であり評価できる。ぜひ実現してほしい。」 |
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小林 隼也さん・伊藤 真太朗さん・ |
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赤松賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.5「マングローブ架け橋 mangrove plank road」
中国・霞山区特呈島の南東に広がるマングローブ林は、近年の台風や観光客の増加により、深刻なダメージを受けている。林への影響を抑えつつ観光と保護活動を両立するための通路となる橋の構造を提案。
大森氏:「地味だとは思うが、テーマに沿った地に足の着いた提案だと思う。」 |
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LIU Yujieさん・LIU Xinyueさん・ |
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大森賞(審査員賞)副賞:賞金5万円 |
No.21「記憶をつつむ」
東日本大震災の際、津波によって約7割の生徒の命が奪われてしまった石巻市大川小学校。校舎は遺構として保存が決定されたが、悲劇を思いだしてしまうから取り壊してほしいと云う声も多かったと云う。相反する願い叶えるアプローチとして、校舎を包むように丘をデザインし、目隠し、津波防壁、記憶の保存を同時に実現する提案。
大森氏:「悲劇の記憶に係る問題を、先延ばしすることなく、構造デザインを通して対応しようとする思いを評価したい。」 |
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武者 美波さん |
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佐藤賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.2「風立ちぬ THE WIND RISES」
元宵節など中国の様々な祭において、人々の想いを乗せて飛ぶ孔明灯。時に大規模な火災の原因となり何度も規制が試みられたこの伝統を絶やさぬよう、軽量で縦横に連結できる凧による構造を提案。 |
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YANG Hongyeさん・GAO Yichenさん |
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彦根賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 | No.4「湿地を守る細胞」
長くチベット族の歴史と共にあり、豊富な生物資源と、周辺環境の調整機能を持つ中国・若爾蓋湿地自然保護区。砂漠化による喪失を防ぐため、チベット文化と貯水・給水機能を融合させた構造を提案。 彦根氏:「世界的な懸念である砂漠化を真剣に考えることに好感が持てる。」
永井氏:「可搬性があり、運用次第で効果が見込めそうな点が魅力的。」 |
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YANG Hongyeさん・GAO Yichenさん |
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竹中賞(審査員賞) 副賞:賞金5万円 |
No.7「隙間を縫う消壁」
西荻窪駅前にある木密地域は火事や地震に弱く、様々な問題を抱えているが、多くの人たちのにとって活気と昭和の空気を感じられる、原風景である。従来の整備計画の様に建物を間引くことなく、風景に干渉しない延焼防御壁を提案する。 彦根氏:「見えないものが障壁となるシステムが面白い。リサイクル可能な材料で実現できるとなお良い。」 |
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福田 泰之さん・小島 慎平さん |
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審査員奨励賞 (永井氏選出) |
No.3「可変式ツリーハウス」
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TIAN Liliさん・LI Xueさん・ |
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審査員奨励賞 (新谷氏選出) |
No.11「石の都 岡崎」
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加藤 万梨香さん・久保 隆成さん・ |
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にぎやかな表彰・懇親会
審査会終了後、表彰・懇親会が同会場の中庭で行われ、受賞チームにクリスタルトロフィーと副賞が贈られました。懇親会では審査員・発表者・観客・運営が一体となり、建築や構造にまつわる様々な事柄について、世代や国境を超えて語りあう、にぎやかで有意義な場となりました。